地域通貨の課題



(はじめに)

 地域通貨が秘めている多様な可能性に大きな期待が持たれている一方、それを成立させていくためには多くの課題を克服していくことが必要だ。例えば、地域通貨を発行管理する組織の問題やシステムデザイン上の課題、さらには法律・税金や国家の通貨主権との関係、あるいは社会経済的な理論の整理などである。
 以下、それぞれの課題ごとに考察してみることにする。




1.実践上の問題

地域「通貨」というからには、多くの人々がそれを活用しなければ成立しないし、また効果を十分に発揮することはできない。
 法定通貨の場合は国家の権能が背景にあるため、国の信頼が余程失墜しないかぎりにおいて自然または強制的な力によって流通する。しかし、地域通貨の場合はそれを単に発行するだけではなく、人々がそれを活用しようと積極的に考えるようにならなければけっして流通しない。
 では、その条件はどのように形成されるのか? あるいはそのインセンティブは何によって与えられるのだろうか?

 例えば江戸時代には244種類の藩札が流通したといわれているが、何故このような状況が生じたのかを考えると、いくつかのヒントが見えてくる。
 当時は、封建社会で国家そのものが未成熟であり過渡的な状況だった。また、貨幣経済や市場経済の萌芽期であり、第一次産業を中心とした自給自足の延長にある物々交換と商品貨幣としての米を中心に動いていた時代だった。
 また、幕府がつくった三貨制度も貨幣流通量の不足などから地方には浸透せず、地方政府である藩独自の通貨が成立した。当初は、そのような独自の通貨を幕府が認めるかどうか手探りの状態であったが、幕府が黙認あるいは国の体制を補完する範囲で認める中で多くの藩札が誕生することになった。国と地方の機能や役割と同時にその相互関係をうまく形成したと言っても良い。
 このような史実を通じて、それを成立させるための社会経済条件をどのようにとらえ、その課題解決のために地域通貨をどのように活用していくのかという戦略的視点を持って導入することが大切だといえるのではないだろうか。 
 次に、当時の藩札は、前例を真似たりする中で多くの共通点があった。
 その一つは、通貨としての効果をあげるために藩内での取引はできるだけ藩札のみを使うようにしていたとされている。
 忠臣蔵で知られている播州赤穂藩の場合、それが徹底して行われていた(日本銀行金融研究所「赤穂藩における史料収集」)そうだが、藩が取り潰しされた時には、通常よりも非常に高い換金率(六分換)で換金したとのエピソードがある。地域通貨も、こうした信頼を得る努力が必要だ。

 藩札は、藩=地方政府が導入する場合の前例としてだが、現在、行政が発行主体となることが法律的にどの範囲まで可能かどうかという点や、行政主導型になることによってコミュニティ自身が発行し運用することによって生まれる一番大きな効果が薄れることが懸念される。
こうした理由から実際には地域通貨を発行し運用していくのはNPOなどの市民組織が大半であり、またふさわしいと考えられる。
 その理由は、NPOがこれからの社会を支える主要なセクターとして次の特性を有しているからだ。

  既得権益が無い
  政府・行政・企業などから独立している
  ミッションに基づき行動する
  自発・自立・独自・責任性を有する
  多元的価値を支える
  社会状況に柔軟に対応していける
  情報公開とアカウンタビリティの確保

 しかし、現在NPOをはじめパブリックな活動を支える社会基盤が希薄な状況において、「誰がどのようにコストを負担するのか」ということは確立されていない。
 例えば、環境問題を解決するためのルールづくりなどを参考にして、その社会的価値に応じて公共経済的観点のなかで模索していく必要があるだろう。 
 また、発行する組織の信頼性や継続性の確保、そのために組織あるいは活動を支えようとする人々の動機付けが不可欠である。地域通貨を成立させるためには、地域通貨を使う市民自身の成熟度も求められるのだ。
 例えば、商店街の活性化を目的として導入を図ろうとする場合、情報化やモータリゼーションの進展、多様化したニーズや販売形態、大店法の改正や流通革命による変化のなかで、商店街が地域においてどのような価値において存在しつづけていくことができるのかという観点から、商店街の各店主および商店街組織全体の熱意や意識改革が必要である。しかし、商店街組織の多くはスタンプシールや共通ポイント制度などの共益的活動をする際の合意形成さえも難しい状況であり、また多くの店主は高齢化や後継ぎ問題などでやる気を失っている。
 そうしたなかで、商店街の活性化のために地域通貨を活用すると言ったところで、それより前の段階の問題がクリアされなければうまくいくはずが無い。自発的な動機付けがなければ何も生まれないのだ。
 地域通貨を成立させるためには、ミッションを明確化し、それに関わる地域の様々な課題を克服していくプロセスを伴いながら粘り強く行わなければならない。
 このプロセスを通じて、確実にその基礎を担う本物の市民が出現しつつあることは確かだ。





2.システムデザイン

 地域通貨のシステムについては、大きく分けて市場(お金)と連動するものとしないものがある。また、流通媒体も紙券を使ったものや通帳上あるいは電子データーのやりとりで行うものなど様々だ。
 「おうみ」の運用に際して検討した各種事例の中で、特に注目したのは、紙券方式で発行されているイサカアワーとトロントダラーであるが、一般的に、口座変動形式(通帳)の場合は、記帳など管理が煩雑なことや、使いやすさ、広がりという面で課題はあるものの、信用創造が起こらずメンバーシップのなかでスムーズな運用が可能である。紙券方式の場合、使いやすさや広がりの面でメリットがある反面、流通量管理やメンバー(クライアント)間の交流がやりにくいという側面もある。こうしたシステムに内在する課題や可能性をどのようにとらえ活用していくのかが更に整理されなければならない。
 また、これらは、地域通貨が導入される時代や経済・社会背景、地域の状況や主体的条件などによって自然発生的に形成されてきたといっても良い。
 システムデザインは、地域通貨を導入する目的を何にするのかによって違う。さらに、この目的自身をある特定のものに限定するのか、それとも地域通貨と国民通貨との関係において相対的なものとしてとらえていくのかということも検討すべきだ。

いずれにしても共通して言えることは、多くの人々が活用するようになるためには地域通貨のしくみはできるだけシンプルで分かりやすく、使いやすいものにする必要がある。また、信頼性確保のためには偽造防止やフリーライダーへの対策も考慮に入れることが不可欠だろう。さらに、運営コストはできるだけ低く抑えることができるようにしないと長続きはしない。

 システムデザインについては、トーマス=グレコ著「地域通貨ルネッサンス」に過去の成功事例や失敗事例の要因の分析も含めて詳しく記述されているので一読の価値がある。
 




3.通貨主権

近代国家において、通貨発行権は国家主権の一つとされている。これは、通貨が国の金融・財政政策の基本となるものであり、通貨発行に伴う発行益(シニョレッジ)なども関係するからだ。
 ユーロの通貨統合の際に見られた各国の独自性や主権問題の論議においていくつかの視点が浮かび上がっているが、この「通貨主権」の観点から地域通貨の存在はどう整理されるのだろうか。 通貨主権の問題を考える時に、ヨーロッパ共通通貨「ユーロ」の動きはもとより、最近の国際テロ(テロ国家)の問題や環境・食料・経済問題などが複雑に絡み合って、国家の基本的な主権とも関係する安全保障に対する考え方が冷戦体制後に大きく変わってきたことと同じように、固定化された概念としてとしてとらえるのではなく、現実の社会状況とそのことをどのように解決しどのような社会を構築していくのかという新たな国家像から描き出す必要がある。
 
 そういう意味では、例えば地方分権社会にあって国と地方の関係を再構築していくプロセスの中で、地域通貨の存在がどのような役割を担うことができるのかという視点や、現在のねじれた状況にある議会制民主主義を補完するために直接的な市民の関わりを可能とする地域通貨システムが効果を上げることができるかどうか、さらにはバブル以降の金融システムの崩壊状況の中で、地域通貨がモノとモノを媒介するのみならず、信用と信用、さらには社会的投資といったことまでをうまく媒介するまでに市場が発展するプロセスの中で新しい役割を担うことができるかどうか、といった視点のなかで整理されていかなければならないだろう。

 通貨主権の問題を整理する上で、次の電子マネーを巡る見解(電子マネー及び電子決済に関する懇談会報告書)が参考となる。



電子マネー及び電子決済に関する懇談会報告書 平成9年5月23日

第8章 電子マネー・電子決済と社会経済秩序の維持

2.電子マネーと通貨秩序

我が国において法的な意味での通貨は通常、法律により強制通用力が付与された紙幣や貨幣を指すが、このような通貨の発行権は国が独占する制度がとられている。こうした国の通貨発行権は、外観上類似のものの作成については通貨偽造・変造罪等の処罰対象となるほか、機能的に類似のものの作成については紙幣類似証券取締法の取締対象となるという形で保護が図られている。これは、通貨秩序が国の経済秩序の根底をなすものであり、確固たるものでなくてはならないとの考え方に基づくものであるとされている。
電子マネーは、言わば現金に代替する一般的な決済手段を目指したものであり、通貨の機能の保護を目的とした紙幣類似証券取締法の適用が問題となりうる。この点については、同法は、そもそも電子マネーの出現を予想しておらず、その対象を紙幣類似の作用をなす「証 券」としていること等に鑑みれば、原則として電子マネーが同法の適用対象となることはないと解される。しかしながら、同法の保護法益である通貨秩序の維持の必要性は今後も引き 続き重要なものであり、電子マネーの普及により通貨秩序の維持に関わる事態が生じるよう な場合には、厳正な対応を図っていく必要があると考えられる。



 また、日本においては、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律、紙幣似証券取締法および日本銀行法によって、次のように定められている。


通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律

(趣旨)
第1条 この法律は、通貨の額面価格の単位等について定めるとともに、貨幣の製造及び発行、貨幣の種類等に関し必要な事項を定めるものとする。

(通貨の額面価格の単位等)
第2条 通貨の額面価格の単位は円とし、その額面価格は1円の整数倍とする。
2 1円未満の金額の計算単位は、銭及び厘とする。この場合において、銭は円の100分の1をいい、厘は銭の10分の1をいう。
3 第1項に規定する通貨とは、貨幣及び日本銀行法(平成9年法律第89号)第46条第1項の規定により日本銀行が発行する銀行券をいう。

(貨幣の製造及び発行)
第4条 貨幣の製造及び発行の権能は、政府に属する。
2 貨幣の発行は、財務大臣の定めるところにより、日本銀行に製造済の貨幣を交付することにより行う。

日本銀行法

第1章 総則(目的)

第1条  日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。
2   日本銀行は、前項に規定するもののほか、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。

(通貨及び金融の調節の理念)
第2条  日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。

第5章 日本銀行券(日本銀行券の発行)

第46条  日本銀行は、銀行券を発行する。
2   前項の規定により日本銀行が発行する銀行券(以下「日本銀行券」という。)は、法貨として無制限に通用する。



紙幣類似証券取締法


 第1条 一様ノ形式ヲ具へ箇々ノ取引ニ基カシテ金額ヲ定メ多数ニ発行シタル証券ニシテ紙幣類似ノ作用ヲ為スモノト認ムルトキハ主務大臣ニ於テ其ノ発行及流通ヲ禁止スルコトヲ得 

 2 前項の規定ハ一様ノ価格ヲ表示シテ物品ノ給付ヲ約束スル証券ニ付之ヲ準用ス

 第2条 前条ニ依リ証券ノ発行及流通ヲ禁止シタルトキハ主務大臣ハ直ニ其ノ旨ヲ公告ス
 2 禁止ノ公告後ニ発行シ又ハ流通セシムルノ目的ヲ以テ授受シタル証券ハ無効トス

 第3条 禁止ニ違反シテ証券ヲ発行シ又ハ其ノ証券ヲ授受シタル者ハ一年以下ノ重禁錮(=有期懲役)又ハ千円以下(=2万円)ノ罰金ニ処シ其ノ証券ヲ没収ス
 2 禁止ニ違反シテ証券ヲ流通セシムルノ目的ヲ以テ授受シタル者ノ罰亦前項ニ同シ
 
 第4条 禁止ノ公告後ニ発行シ又ハ流通セシムルノ目的ヲ以テ授受シタル証券ハ裁判ニ依リ没収スル場合ヲ除クノ外何人ノ所有ヲ問ハス行政処分ヲ以テ之ヲ没ス



【自治体の提案に対する財務省の回答】

 
 紙幣似証券取締法で示されている「多数ニ発行」し「紙幣類似ノ作用」を有するものとは、不特定多数の人々に発行し、現金での決済が可能な証券またはそれと同じ機能を持ったものだと解釈できるが、地域通貨の場合は特定の人々が限定された地域・グループ内で流通させるものであり、これには該当しない。
 管轄する財務省(旧大蔵省)の見解でも「紙幣の機能とは、何処でも、誰でも、何にでも支払いないし決済の手段として利用できることである」「基本的にこのいずれかの要素が欠ければ紙幣類似とはならない」とされていることから、地域限定型で流通する地域通貨の場合は問題ないと考えられる。
 ちなみに、かつてこの法律が適用された事例は見当たらない。また、構造改革特区推進本部のホームぺージで次のような見解が示されている。

紙幣類似証券取締法においては、紙幣類似の作用をなすに至るような証券についてはその発行や流通が禁止されうることとされている。
 同法の適用除外を設けることについては、幣制の不統一等通貨制度に混乱を招くことから、認められるものではない。
 しかし、現在でも同法に抵触しない範囲において、各地においていわゆる地域通貨が発行・流通している。

(注)紙幣類似の作用をなすとは、一般的に、「何処でも、誰でも、何にでも、支払ないし決済の手段として利用できる」場合をいう。(平成元年2月「プリペイド・カ−ド等に関する研究会報告」大蔵省見解





4.各種法律


 【前払い式証票の規制等に関する法律】

 平成元年に制定された前払い式証票の規制等に関する法律は、その目的を「前払式証票の発行者に対して登録その他の必要な規制を行い、その発行等の業務の適正な運営を確保することにより、前払式証票の購入者等の利益を保護するとともに、前払式証票に係る信用の維持に資すること」としている。
 この法律は、国又は地方公共団体等が発行するものや発行者の従業員に対して発行される自家発行型前払証票およびこれに類するものは適用除外となる。
 前払い式証票のうち自家発行型前払式証票は、流通残高が700万円以上の場合に届け出が必要となり、1000万円を超えると保証金の供託が必要となる。また第三者発行型前払式証票の発行業務は、金融再生委員会の登録を受けた法人以外は禁止されている。ただし、有効期限が6ヶ月間以内のものは届け出の必要はない。
 商店などが出すクーポン券(サービス券)はこの法律には該当せず、一般的には地域通貨の形態が商品券やプリペイドカードに準ずるもとのと判断される場合にのみ適用されることが考えられるが、円と兌換されないシステムであれば問題ないだろう。
 「おうみ」の場合は、財務局より「購入ではなく寄付によって発行されているため、前払式証票には該当しない」との回答を得ている。


 【出資の受入れ、預り金及び金利の取締りに関する法律(出資法)】


 出資法では、不特定かつ多数の者に対し、後日出資の払戻として出資金の全額又はこれを超える額を支払うことを示して出資金の受入れをすることを禁止している。また銀行、信用金庫、農協等のように他の法律で定められた者以外が、業として預り金(不特定かつ多数の者から金銭の受入れで、預金、貯金又は定期積立金の受入れ及び何らかの名義をもってすることを問わずこれらと同様の経済的性質を有するもの)をすることを禁止している。

 出資法でいう出資金とは、事業のために提供され、その事業の元手として用いられる資金のことだが、事業が成功した場合には、出資金も利益も戻ってくるが成功しなかったらば出資金そのものも戻ってこないというリスクも含むものであるにもかかわらず、この元本を保証するということは、出資金本来の姿に反した特約になり、顧客を惑わすことになるため法律で禁止されているのだ。
 同時に、この法律では銀行や信用金庫、農協などのように他の法律で特に定められた者以外が、業として預かり金をすることも禁止している。
 「おうみ」の場合は、出資ではなく寄付(カンパ)へのお礼としてカードを発行しているだけであり、この法律の適用は受けない。

 【労働法など】

 地域通貨を賃金として支払う場合、労働賃金は現金で直接支払われなければならないとされる労働基準法や所得税法などに留意する必要があるだろう。また、基金を集めて運用する場合には、信託法や銀行法などにも抵触しないように運用することも必要だ。
 現時点では、これらの法律の枠内での運用となるが、いずれはNPO法のような特別法などにより、その可能性をより引き出すことができる枠組みの整備が必要となるだろう。
 

 地域通貨は、すでに全世界各国での取り組みが根付いており、米国ではイサカアワーの発行に関して、1996年にFRB(連邦準備制度理事会)は法的に問題がないとの見解を示し、ウォールストリートジャーナルは、「アワーズの発行は合法であり、すべてIRS(内国税収入局)に所得税として申告されている」と報じている。また、タイムダラーの取引に関して、ミズリー州などの裁判で非課税扱いとする判決が出ている。
 イギリスでは、ブレア首相自らがLETSを推進しており、とりわけオックスフォード市の財的・人的支援は際立っているといわれている。またフランス(SEL)では、地域通貨団体を設立する際に政府がコストの20%を負担する制度があるそうだ。ニュージーランド、オーストラリアでも、政府機関が設立に積極的支援しており、自治体がLETSの可能性に着目し、その育成に力を入れ始めている。アルゼンチンのRGT(グローバル交換ネットワーク)は、経済省中小企業庁との間で制度的な協力を行う協定書にサインしている。
 さらに、パプアニューギニア東ニューブリテン州が、儀式などの際に使われる互酬的な使用に限られていた貝貨を法定通貨の一つとして認めた。
 日本では、平成12年度の国民生活白書で、相互扶助を促進するツールとして地域通貨が有効であると紹介されたり、最近では秋田県小阪町のようにLETS導入を都市総合計画に明記したり、地域通貨導入を公約に掲げる首長が誕生したりしている。
 このように、海外ではある程度法的な整理が進みつつあり、日本でも導入の動きが本格化しつつあるなかで、適正な運営が図られるようなガイドラインや法的整備が求められている。同時に、市民のオルタナティブな実践を通じて、市場の抱えている問題を補完し社会の構造改革を進めていく上で大きな可能性を持っている地域通貨を社会に定着させていくことが求められている。




5.税金

 消費税の場合は、物やサービスの対価に対して課税されるものであり、NPO法人などの会費や寄付金のように反対給付を期待しない対価性のない取引は課税対象とはならない。これを不課税取引(課税対象外取引)という。また、消費税が課税されるのは、事業者が事業として行う取引であり、個人が生活の用に供しているものを売却するなど事業者以外の個人の取引は課税対象とはならない。さらに、中小の事業者の負担を軽減するため免税事業者制度があり、年間の売上額が3000万円までの法人であれば免税業者とされ、納入義務が免除される。
 その他、法人税も含めて企業が事業の一環として地域通貨を受け入れる場合は、基本的には課税対象となるだろう。また、商店などの場合は、事業として活用しているのか、それとも店主個人がボランティア活動の一環として取り組んでいるのかなど、実態に則した判断がされると考えられる。

(具体例)
 商店や企業が地域通貨を活用する場合、その扱い方に応じて次のようになる。

1、クーポン券やディスカウント券として受け取る場合、消費税は現金売上部分をベースに計算し、法人税の算出時には地域通貨分を販売費として損金算入することができる。

2、受け取った地域通貨を換金または再利用する場合、消費税は現金と合算した売上金をベースに計算し、法人税については損金算入できない。

3、地域通貨を受け取った企業が、そこで働く社員やアルバイトなどのスタッフに対して地域通貨を手渡した場合、これを所得とみなす場合は、給与・一時または雑所得の課税対象となる。
 
※ 税の取り扱いについては、所轄の税務署に確認して   適正に処理することが必要。

 なお、当委員会に対して所管の税務署から「法人が地域通貨を活用する場合は、どのように使うのかを契約書で交わすことが望ましい」との見解が示されている。





6.社会経済理論

 地域通貨が全国各地で流通するようになって、大半の人々が地域通貨を使うようになれば、マネーサプライを乱したてインフレを招いたり社会に混乱をもたらすのではないか、と危惧する声がある。一方で、最近のデフレ傾向を脱却するためにこそ地域通貨を導入すべきだとの論調もある。
しかし、現状の発行・流通量ではこれらの問題が派生することは言葉の遊びにすぎない。なぜならば、現在全国各地で発行されている商品券の発行量は5兆9800億円(前払式証票発行協会のデータ)にも達するが、これだけの発行量が現実的にあるにも関わらず、これがマネーサプライとの関係で問題視されたことを耳にすることは無いからだ。
 とはいえ、将来的に多くの人々が地域通貨を利用するようになり、市場世界で大きな影響力を持った時に国民通貨への影響がどのように出てくるのかということを心配する人が存在する以上、それに答えていくことは必要だろう。しかし検討に際して、地域通貨のシステムごとに影響を及ぼす対象が変わってくることも考慮されなければならない。

 まず、市場(お金)とは連動しない地域通貨システム(エコマネー、タイムダラーなど)の場合は、直接的に市場経済や国民通貨に影響を与えるとは考えにくい。この場合は、ボランティアや地域活動の活性化がどのように社会的な影響力を与えるのかとう側面から検討されることが自然であり、地域通貨という一面的なものとしてではなく、既存の非営利活動全体から捉えていく視点が必要だ。

 次に、市場と連動するシステムの地域通貨が与える影響についてだが、このなかに分類される地域通貨にもいくつものタイプがある。その中で、農作物や特産品などを担保にしたりお金と換金できたりするシステムについては、商品券とほとんど同じ作用をするため地域通貨として特別な理論を組み立てる必要性はあまりない。むしろ市場行動が大きく変わることによる影響を考えていくことが有用だと思われる。一方、行政が債権として地域通貨を発行するとどうなるだろうか? 地方債権そのものが地域通貨として流通した例としては、海外では1930年代の自由貨幣運動の事例の中で有名なオーストリア・チロル地方のヴェルグルの事例や最近では、アルゼンチン・ブエノスアイレス州の「パタコン」と呼ばれる債券型地域通貨がある。
 日本では藩札もその要素があったと思われるし、地域通貨としての活用はされていないが1970年代に制度化され最近注目を集めているコミュニティ・ボンド(市民公募債)も含めて、その影響について考えることは大変興味深い。
 いずれにしても「無」から錬金術のようにお金を生み出すことはできないし、負債はそれを返済しないと帳尻が合わなくなることだけは確かだ。また、地方政府がお金ではなく地域通貨を活用することで、市民参加や協働に対する意識が大きく変わることだろう。

 以上、いくつかのシステムからマネーサプライや社会への影響などについて考えてみたが、そもそもお金は現金で存在しているよりも民間銀行が信頼創造し銀行口座上に記載されているデータ上の通貨や投機マネーの方が圧倒的に大きいことを考えると、地域通貨がそうしたことに影響を与えることを危惧することも、逆に利用することを考えるのもあまり有益ではなさそうである。地域通貨が注目され、その基礎的基盤が形成されつつあるが、地域通貨と法定通貨との関係や、経済的・社会的効果に関する考察、さらには国家と地方分権社会・市民社会との関係の整理など、理論的に不十分な点も多い。今後、より踏み込んだ研究が求められている。





全文は、委員会の資料集に掲載しています。






連絡先

特定非営利活動法人
地域通貨おうみ委員会


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