成熟した市民社会の創造に向けて
   

 〜草津コミュニティ支援センターとコミュニティマネー「おうみ」の挑戦

 

本文は、ぎょうせい「地方財務」2000年2月号への寄稿文です。

 

 

 

1.はじめに

 

 筆者は、草津コミュニティ支援センター(以下センター)の設立当初から担当者として関わり、「協働」を基本原則に現場とコミットメントしながらサポート業務をおこなっている。本文ではセンターおよびセンターで運用しているコミュニティマネー「おうみ」を紹介し、あわせて市民公益活動へのサポートのあり方などについての問題提起と地方分権時代におけるまちづくりの課題について述べる。

 

 

2.センターの概要

 

1998年5月に開設された当センターは、マンション開発に伴い草津市に寄贈された土地建物を財団法人草津市コミュニティ事業団(※)が無償で貸与を受け、公設市民営によるコミュニティサポートセンターとして活用している。NPO支援に関するレポート参照

 

 所在地:草津市西大路町 10-12

  鉄骨2階建 延べ面積  約317u

 

    1階:インターネット体験コーナー、

       デジタル映像編集コーナー

             地域情報コーナー(インターネットおよびグループウェアサーバー設置)

       コピー・印刷・製本コーナー

       まちづくり図書閲覧コーナー

       喫茶・談話コーナー、

       和室

       会議室          

    2階:多目的ホール(50名収容)

       グランドピアノおよび各種プレゼンテーション機器

 

※財団法人草津市コミュニティ事業団は、1984年に設立された民法第34条の規定による公益法人。

  

 センターの備品は、滋賀県淡海文化推進補助(総額3000万円)により購入され、運営経費は草津市より光熱水費・電話回線費および若干の諸経費がコミュニティ事業団へ補助金として交付されている。また、日常の運営については、市民ボランティアによる「草津コミュニティ支援センター事務局」(以下センター事務局)が担っている。 

 

 

3.センター事務局の形成と「おうみ」の導入

 

(センター事務局の形成)

 

 センターは、公募による団体登録制度をとっている。

 開設当初、市民による自主運営を成立させるために登録団体すべてに「共同事務局」への参画を条件とし、登録料以外の使用料は無料とした。「共同事務局」には、@NPOセンター部門 A市民地域情報部門 Bコミュニケーション部門を設け、コミュニティサポートセンターとして活動していくための基盤づくりを目指していた。しかし、登録団体がこれらの部門へ義務的に参画するには限界がでてきたため、運営方法の転換が必要となった。そこで、98年12月に登録団体に意向調査を実施し、その結果などを踏まえて登録団体の加盟方法を「利用団体(施設利用のみを目的とする団体)」「運営団体(センター運営にも協力する団体)」の選択制とし、同時にボランティア事務局員を公募して運営していくこととした。

 

(コミュニティマネー「おうみ」の導入)

 

 センター事務局は、地域公益活動のサポート機能を担う組織であるが、資金や運営を支えるしくみをどう形成していくのかということも大きな課題である。そこで、運用資金の調達方法として地方自治法第244条の2(公の施設の設置、管理および廃止)の第4項で定める「利用料金制度」の考え方を導入できないかと考えた。

 「利用料金制度」は、公の施設の管理運営にあたって、管理受託者の自立的な経営努力を発揮しやすくするという理由などから平成3年に創設された規定である。市民によるセンター運営を施設管理業務という側面から考えれば、「利用料金制度」の導入は、公共施設の合理的・効率的運営をおこなうしくみとして有効である。また、センター利用者(市民活動団体)が使用料を負担することによって、地域公益活動を自分たち自身の手で支えていくという「目に見えて体感できる関係性」が成立する。

この考え方に基づき、従来無料であった使用料金を有料にし、センター運営資金に充てることにした。一方、お金での関わりだけではなく直接的関わりも促進するために、センターの清掃や運営面での参画によって得ることができるクーポン(施設利用券)で使用料を支払える制度を導入した。これが、現在発行しているコミュニティマネー「おうみ」発行の出発点である。

 1999年4月に「おうみ」が導入された当初は、電子上での決算のみに使用していたが、同年5月29日センター設立1周年を記念して開催した「市民活動交流会」で「紙幣おうみ」を発表した。これ以降、個人間でも使用できるコミュニティマネーとしてのアプローチがはじまった。

おうみの発行量は、センター使用料収入や事業収益金ならびに協力金などを原資とする信託金積立額に連動しており、1おうみが100円に相当する。

 「電子おうみ」は、センター登録団体や事務局スタッフなどが活用しており、ボランタリーな活動の対価を施設使用料等として決済している。一方「紙幣おうみ」は、個人間でのボランタリー活動のバーター取引ならびにコミュニケーションツールとして活用している。

 

(ボランティア組織のマネジメントと「おうみシステム」)

 

ところで、NPOに関わる労働の対価はどのように評価されるべきなのだろうか。

 筆者は、それを「善意」に対する「感謝の気持ち」という曖昧な形であらわすだけではしくみとしてふさわしくないと考えている。また、NPOが社会的に有用な公益的事業をおこなうことで始めてその意義があることから、単純な時間給ではなく、ビジネスにおける「成功報酬」的なものとしてとらえることが必要ではないだろうか。すなわち、現在のNPOを社会的存在として確立していくためのマネジメント能力と、そのことへの関わりによって自ずと結果的として出てくる収入こそが、NPO活動を支えるスタッフにそれぞれの関わりに応じて配分されるべき費用だと考える。

   また、おうみシステムがボランタリー経済において有効だと考える理由は、ボランタリー経済が従来の通貨による市場経済では成り立ちにくいため、ボランタリーな意志や労働をバーター取り引きできる媒体として機能させることができることにある。

センター事務局が市民によるコミュニティ・NPOサポート機能をもった民間非営利組織として、その機能を継続的に維持し発展させていくためには、なによりもマネジメント能力を有した常勤スタッフの確保が必要条件であり、さらにそうした機能を担うスタッフに対しては、必要な経費負担ができる経済基盤およびその配分のしくみが不可欠である。      

現在、事務局スタッフへはそれぞれの業務に応じた額のおうみが配分されている。

 

 

4.市民活動においてどのようなサポートが求められているのか

 

 市民活動へのサポートの意義および内容については、各種論文や行政レベルにおいては条例として定式化されつつある。しかし、実際の現場において必要とされることと行政の原則的立場として示されるサポートのありようは、様相を異にする場合が多いように感じている。

 

 センターにおいて、活動の創設期においてまず必要とされたことは、トップマネジメントと地域で共有された「意志」であったのではないかと考えられる。しかし、当初センターが企業から行政に寄贈され、その有効な活用方法を担当者レベルで検討する際に、市民が関わる場がなかった。

また、「なぜ、誰が、どのようなミッションでセンターを活用していくのか・・・」といった共通の問題意識が不在であった。このため、将来構想が不透明となり、センターのミッション形成とそれを支えるしくみをつくることに困難を伴った。

 この時期に求められたのは、一般的に言われる「人・物・金」とは全く違う「意志」とでもいうようなものであったのだろう。このような状況から派生した問題は、36団体あった当初のセンター登録申請団体が、説明会などを通じて最終的には16団体へと半減したことや、行政のなかでもいまだにセンターの存在が知られていないなどに現れている。

 

 また、市民活動のサポートは市民自身が支えるべきであるということから、公募(有志)により集まったボランティアにより事務局を立ち上げた。その時に私たちが必要としたことは、行政・市民が立場を越えて参画し、共にリスクを負いながら新しいしくみをつくるために実践を通じて現実化していく「社会実験」をおこなっていくことであった。しかし、「パートナーシップ」を原則として掲げる行政からは、こうした動きに対するコミットメントは現段階ではなされていない。

 

 さらに、センターで最近になって大きな課題となってきたのは「資金確保」である。

 地域公益活動のサポート機能を市民が担うということは、行政機関が税金によって支えられているように、活動を支えるしくみが必要不可欠なのである。これは、単に「お金」の問題ではない。私たちのセンターは、行政依存ではなく自立した市民自身が支える組織体を目指している。従って、「誰がどのように支えるのか」ということが問題であり、その意味を広く伝え説得し定着させるためのアプローチとヒューマンリソースが必要である。従って、行政がサポートすべきことはそのコンセプトに「共感」し「共に支える基盤をつくる」ことであろうし、同時に市民サイドからも主体的な参画を求めたい。

 

 行政が市民活動支援条例をつくり「政策」として遂行する場合、現場とのコミットメント無しには機能しないと考える。これを実効力あるものにするためには、政策を打ち出す組織そのものの転換を伴うことが必要なのではないだろうか。

 

5.構造社会に向けての市民活動と社会実験

 

 私たちは、どのような地域社会を目指しているのか。

 目指すべき社会像のなかで市民活動はどのような意味を持つのか。

 そして、それをどのような方法で実現していくのか。

 

 90年代に入って以降、グローバルな枠組みや社会状況が大きく転換し、環境問題など解決すべき課題もこれ以上先送りできない瀬戸際にまできている。そして、新しいミレニアムを迎えて、私たちまちづくりに関わる者にとっては、現実の社会的課題を見据え実践的にそれを解決し、新しい社会を創造していくための能力と気概が求められている。

 日本型社会主義といわれた官主導による行政依存社会から、多様な価値を社会発展に結びつけ、市民自身が考え自分たち自身が責任を負って行動し創造していく経済自立型市民社会構造への転換が求められていると筆者は考えている。グローバルな課題と国家的な課題、そして地域のありようを関連させて考え行動する「自立した市民」が担う社会のありようが構造社会といわれるものであり、NPOはこうした社会を創造する原動力として、また旧来の活路なき社会的遺物を共に改革していくパートナーとして重要な存在となるであろう。そして、多様な価値を実践的に結びつけていくためには、各セクターが協働する場が不可欠である。また、そこでの社会実験で形成された成果を社会的なしくみへと結びつけることが重要なことである。

 

6.最後に

 

 地方分権が論議の段階から実施段階に入ろうとしている今、行政ならびに市民自身の自己改革が必要である。その自立的発展をサポートする社会的しくみをコミュニティ自身が形成することこそ、これからのまちづくりに求められている課題であろう。 





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