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【地域通貨】 地域通貨の概要が分かります!





■地域通貨とは



 「地域通貨」とは、国が発行する日本円や米ドル、ユーロなどの「法定通貨」とは違い、コミュニティが独自に発行し、物やサービスを特定の地域やグループの中で循環させることによって、市場では成り立ちにくい価値を支えていくための社会システムです。
 
 地域通貨の持つ大きな意義は、法定通貨のように中央銀行が発行するのではなく、コミュニティ自身の手で作り出すことができる点にあります。
 またその特徴としては、特定の範囲でのみ通用し、循環することによって価値を生み出すことや、「お金」のように利子がつかないことなどがあげられます。

 地域通貨は、こうした特質からコミュニティ再構築や地域経済の活性化などを促進するものであるとされ、世界各国で約2000、国内約140地域で導入されています。






■地域通貨の種類


地域通貨の発行方法には、大きく分けて @紙券発行型 A口座変動方式 B小切手型の3種類があります。

 このなかで、紙券発行型の特色としては、匿名性があり誰でもが現行通貨と同じような感覚で使えることや個人間取引の際に簡単にやりとりできるといった利点があります。
 しかし、発行団体による信用創造を招く可能性があることから、通貨発行の条件の明確化や発行量の管理が必要となります。こうした理由から、紙幣形式で運用しているアメリカのニューヨーク州イサカ市「イサカアワー」では、地元住民の代表からなるイサカアワー委員会の理事会が流通の管理をおこなっています。また、カナダのトロントで発行されているトロントダラーは、カナダドルへの償還費用積立額と連動して発行するという方法をとっています。

 一方、紙幣は発行せずに通帳や電子上でやりとりをする口座変動方式は、各個人の信用保証の連なりによって構成されるため、第3者が信用創造することはないと同時に、元手がゼロからでも交換が始められるというメリットがあります。その反面、手帳記入式であるため手間がかかることや、口座残高などの管理が必要なこと、さらには手帳が本人の自主管理になるため曖昧さが残る点など課題もあります。
 また、紙幣や帳簿上のポイントを法定通貨と連動するものと、たとえば労働の価値などに置き換えるなどして、法定通貨とは関連づけないものとがあります。これは、社会的背景や導入の目的、さらには法律との関係など様々な条件によって決められています。






■地域通貨の分類


地域通貨は、様々な目的で活用されていますが、大まかに分類すると、相互扶助の促進やコミュニティづくりを主な目的としたものと、地域経済の活性化を目的としたものがあります。また、その目的に応じて法定通貨と連動するしくみのものと、お金とは全く切り離して運用されている地域通貨の2種類があります。
 法定通貨と連動するタイプの地域通貨の中には、共通商品券のようなものや、割引券的な使われ方がされるものがあります。
 一方、法定通貨と連動しない地域通貨は、時間の価値をベースに取引がされるものが多く、日本では「エコマネー」が有名です。



 



■地域通貨の可能性


(中央集権型から多極分散型へ)

 地域通貨は、国家によってつくられた大きなシステムが抱える欠陥を補完するシステムをコミュニティによって作り出すという機能を備えています。
 その点でいえば、リサイクル商品を独自に開発して市民間で流通させる取り組みや、原発や化石燃料に頼らず、太陽光・風力発電やバイオマスを増やすためにおこなわれているオルタナティブな市民活動の考え方と共通している点があります。多くの地域通貨がNPOによって運用されているのも、こうした理由によるところが大きいといえます。

 また、地域通貨は人々の信頼やボランタリーな活動・労働力等を担保にしているため、市場経済システムから人々の生活をガードする役割を担う可能性も秘めています。たとえば、97年のタイ・バーツの切り下げから始まったアジア通貨危機は、IMFやドルペッグ制の抱える問題点などを浮き彫りにしましたが、国家の通貨は暴落しても地域通貨で相互扶助関係が成り立っている地域では、こうした影響からリスクを回避できる可能性があるのです。


(地域経済を支えるしくみ)

 グローバル化した経済システムの中で、全国や世界の市場と連動して物とサービスが流通し、お金は地域の境目なく流通するのが普通です。とりわけ、過疎地域などでは地域の貨幣が地域に投資されず外部に流出しやすいしくみになっています。
 これに対して、地域通貨は特定の地域・グループにおいてのみ通用することから、そのような流出現象は起こりません。このことから、地域内での相互扶助や地域資源をいかした新たなビジネスの機会をつくることにもなります。
 地域通貨は、地域で循環する仕組みとして機能し、それを使ってベンチャーやコミュニティ・ビジネス等を起こす人が増え、新たな雇用が生まれるなど、地域循環型の市場を創出する可能性をもっています。また、助け合いの精神が芽生え、ボランタリ―な地域社会の形成を促進するツールとして活用することができます。  
 グローバル・スタンダードとされてきた市場競争至上主義が揺らぎ、生活の基盤は地域にあることが再認識されはじめているなかで、地域通貨はコミュニティ再構築のツールのひとつとして、また地域経済を支える方法として注目すべきシステムだと考えられています。

(コミュニティの成熟)

 地域通貨は、生産する人と消費する人とが対等・互恵の関係にあり、消費する人はそれに相当するものやサービスの提供者でもあります。このことから、地域通貨を循環させることによって自立型のコミュニティが徐々に形成されてきます。また、これらの循環は特定の地域内でおこなわれることから、地域内資源循環型経済システムを構築することができます。そしてその消費パターンは、これまでの大量消費から、地域の生産力やサービス提供力の範囲内での「持続可能型消費」へと転換していくことが期待されます。
 さらに、地域通貨は信用創造しないため、投機的活動とは無縁となり、自己責任と対等な人間関係のなかでの信頼関係が醸成されます。
 加えて、地域通貨を発行し、運用することによって経済システムの本質を知ることができるという学習効果も期待できます。






■地域通貨と地域振興券との違い


景気対策の一環として、1999年に各自治体で発行された地域振興券や、一般的な商品券・クーポン券と地域通貨との違いはどのようなところにあるのでしょうか?

 一番大きな違いは、地域通貨が繰り返し使われ循環するのに対して、地域振興券などは消費者から商業者などへの決済手段として1度だけ使われすぐに現金化されるという点です。
 
 また、地域通貨が地域の資源を循環させることを目的としているのに対して、地域振興券などは取引の対象を地域内資源に限定しない点も違います。
 さらに、地域通貨は自分達が自らつくり流通させることに対して、商品券やクーポン券は営利目的で発行され、地域振興券は国や自治体から与えられるという点が大きく違います。
 
 加えて、地域通貨はコミュニティを支えるために活用されるのに対して、地域振興券などは自家消費にのみ使われ、パブリックな価値を支えるために使うという市民の公共心を育てることなく使われる点も違います。





■地域通貨の歴史



(世界での動き)

 今日の地域通貨の拡がりは、1983年にカナダのブリティッシュ・コロンビア州ヴァンクーバー島東岸のコモックス地方でマイケル・リントンを中心として始められたLETS(Local Exchange Trading System=地域での交換取引システム)から始まったとされています。
 LETSの提唱を受けて、同様のシステムは世界各地で発生し、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、フランスなどで急速に普及することになりました。

 LETSの起源は、19世紀前半にローバート・オウエンが考案した「労働貨幣」(Labour Exchange Notes)にまでさかのぼります。労働貨幣は財の生産に要した労働時間を具体的に示した証書として発行され、労働者が自ら生産した生産物を労働交換所に持ち込み、その労働時間に等しい「労働貨幣」を受け取って自分の欲しいものを購入する仕組みでした。
 しかし、この仕組みは価値評価システムに問題があったり、商人に悪用されたりして3年足らずで幕を閉じました。

 また、シルビオ・ゲゼル(Silvio Gesell、1862〜1930 ドイツ生まれの実業家・経済学者)がアルゼンチンで提唱した「減価するお金」は、1929年にドイツのヴェーラを生み出し、第1次地域通貨ブームの火種となり大きな影響を与えました。ゲゼルの理論は、ケインズによって高く評価されており、1934年から運用されているスイス・チューリッヒのWIR (ヴィア)経済リングの原点となっています。
 1985年には、アメリカ・ワシントンで、弁護士エドガー・カーン氏の発案により、タイムダラー(Time Doller)という、労働貨幣の一種が発行されました。当初は、助け合いの点数(Sarvice Credit)と呼ばれていたこのシステムは、介護・福祉・社会貢献活動などへのボランティアサービスを、「1時間=1タイムダラー」の単位で評価し、お互いの助け合いの精神に基づき会員間で交換するものです。また、時間預託をして自らの介護が必要になったときなどにサービスをうけるという使い方も可能です。
 
 地域通貨は、第一次世界大戦後の1930年代に巻き起こった世界大恐慌のなかで、疲弊した地域を復興させようとして「第一次ブーム」が巻き起こりました。このムーブメントは、例えばアメリカでは、分権的意思決定を前提とするこうした取り組みを禁止し、それに代わって中央政府が大規模な経済計画を立てて不況からの回復を図ろうとするニューディール政策が実行され終息することになりました。
 1983年のLETS以降、とりわけ1990年代に入って、メキシコ・エクアドルで「トラロック」(TLALOC)という個人振出し小切手による決済システムが生まれ、1991年にはアメリカのニューヨーク州イサカ市「イサカ・アワー」、1998年にはカナダの「トロントダラー」が発行されるなど、第二次ブームを迎えたといえるでしょう。

(日本での動き) 

 日本においては、「結い」や「講」、あるいは「隣組」といった制度が古くからありました。しかし、戦争や戦後の高度経済成長期のなかでこうした助け合いの仕組みは薄れてしまったようです。
 そうした中で、1973年「ボランティア労力銀行」(大阪:代表 森脇宣子)が先駆的な取り組みを始めました。
 また、1981年には東京都練馬区にある「暮らしお手伝い協会」(1996年閉会)が、有償による「ふれあい切符制度」を始めています。
「ふれあい切符制度」というのは、さわやか福祉財団が時間預託、労力銀行、タイムストックなどを総称して名づけたもので、ボランティア活動を促進する方法として広がっています。
 1991年には、生活クラブ生協神奈川の「神奈川バーターネット」の実験が4ヶ月の期限付きでおこなわれました。
 1995年には、愛媛県越智群関前村が日本で初めてタイムダラーを取り入れました。関前村は、人口905人で老齢比率は46%(全国5位)という瀬戸内海の離島で、人口の過疎とともに、「異世代間のコミュニケーションの過疎」を克服するために導入されたのです。その名称は「だんだん」といい、方言「重ね重ねありがとう」を意味します。

 1999年に入って、千葉まちづくりサポートセンターのピーナッツや当委員会が「おうみ」を発行するなど、各地で実験や導入が図られるようになりました。






■参考文献



■『地域通貨を知ろう』  西部 忠(岩波ブックレット)

■『だれでもわかる地域通貨入門』 森野栄一編/あべよしひろ・泉留維 (北斗出版)

■『なるほど地域通貨ナビ』  丸山真人・森野栄一(北斗出版)

■『ふれあい・支えあいのきっかけづくり』 (さわやか福祉財団)
   
■『エンデの遺言』 『エンデの警鐘』 河邑明徳・グループ現代編 (NHK出版)

■『地域通貨ルネッサンス』 トーマス=グレコ(本の泉社)

■『貨幣の生態学』 リチャード・ダウス ウェイト (北斗出版)

■『マネー』B.リエター (ダイアモンド社)

■『マネー崩壊 新しいコミュニティ通貨の誕生』 B.リエター(日本経済評論社)

■『マネーの正体』 D.ボイル (集英社)

■『可能なるコミュニズム』柄谷行人(太田出版)

■『エコバンク』金岡良太郎(北斗出版)

■『ボランティア経済の誕生』 金子郁容、他 (実業之日本社)

■『貨幣発行自由化論』ハイエク(東洋経済新報社)

■『タイムダラー翻訳版』  『ふれあい切符制度』 『ふれあい切符研究会報告書』(さわやか福祉財団)

■『希望の国のエクソダス』村上龍(文藝春秋社)

■『エコマネー』(東洋経済新報社) 『エコマネーの新世紀』 (勁草書房) 『エコマネーはマネーを駆逐する』  (勁草書房)  以上3冊 加藤敏春

■『自由経済研究』 各号 ゲゼル研究会  (ぱる出版)

■『地域開発』 1998年12月号(日本地域開発センター)

■『市民社会のボランティア』
     田中尚輝(丸善)

■『ボクらの街のボクらのお金』 あべよしひろ (さんが出版)

■『経済と文明史』 カール・ポランニー(日本経済新聞社)

■『新しい貨幣の創造』 J・ロバートソン、他 (日本経済評論社)








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